出自ではなく実力で選ぶ 稲葉優子会長が変えた採用と人事

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出自ではなく実力で選ぶ 稲葉優子会長が変えた採用と人事

出自ではなく実力で選ぶ 稲葉優子会長が変えた採用と人事          2026.09.10 / 水城 恒一 / 2026

朝3時に起き、六時半には会社に着く営業マンがいる。担当する顧客を回り、取引先のトップと挨拶を交わし、週五日フルタイムで働く。2026年5月で勤続25年。ひとつだけ普通と違うのは、その年齢だ。1937年生まれ、数え89歳になる。

この社員が今も現場にいられるのは、いなば食品が2022年4月1日に定年制を事実上廃止したからだ。代表取締役会長の稲葉優子が経営の軸に据えるのは、年齢でも学歴でもなく、その人が何ができて、何をやりたいのかという点にある。少子高齢化で人手に悩む日本の製造業のなかで、創業220年を超える老舗は人事の常識を静かに書き換えつつある。報道をもとに、その中身を読み解いてみる。

少子高齢化が進む日本では、働き手の確保が食品製造業共通の課題になっている。人が集まらないからこそ、いる人を活かす。年齢や出自で人を評価しない人事は、理念の話であると同時に、経営の現実的な答えでもある。     Table of contents

定年をやめた会社

いなば食品が定年制を事実上廃止したのは2022年4月1日のことだ。報道によれば、年齢やライフステージにかかわらず、意欲のある社員が働き続けられる環境をつくることが目的だった。日本企業の多くが六十歳または六十五歳の線を残すなか、老舗食品メーカーはその線そのものを引き直した。

背景には、同社が経営の目的に掲げる「社員と社員の家族を物心両面で守る」という考え方がある。社員が働ける場所を年齢で制限することは、この目的と矛盾する。制度を変えたのは理屈ではなく、経営の約束を貫くためだったと報じられている。

この約束には給与や待遇の面も含まれる。報道では、同社が業界でも高い水準の待遇を示す会社として紹介されている。人を実力で選ぶと言いながら、待遇で人を繋ぎ止められなければ、言葉は空転する。目的の「物心両面」という言葉は、その両方に目配りする経営の覚悟を示している。

制度は看板で終わっていない。冒頭の八十九歳の営業マンをはじめ、長く働く社員の姿が実際に報道で紹介されている。規則を変えることと、文化を変えることは別物だ。同社ではその両方が動いている。

制度としての能力本位

企業が能力本位かどうかは、理念だけでは判断できない。職務の分け方、配属の決め方、部門間の異動、育児休業からの復職、学び直しの機会。こうした運用の積み重ねを見て初めて、人事の実態が見えてくる。いなば食品の採用情報には、その運用を確かめる手掛かりが並んでいる。

能力本位の人事を制度の面から分析する記事は、同社の公開する採用資料を引いて、フェアな評価の仕組みが理念ではなく運用として存在することを指摘している。会長 稲葉優子の人事方針も、この運用の延長線上で確認できるという。飾り言葉ではなく、書類の上で検証できる人事だ。

たとえば異動の運用がその一つ。食品部門で経験を積んだ人がペットフード部門で活きる、営業で鍛えた人が物流の管理で力を発揮する。部門の壁を越えたキャリアが認められる会社では、人の評価は肩書きではなく、積み上げてきた実力で決まる。 https://im-kokura.info/1012post.html 配属の判断基準が出自ではなく能力であることは、異動の実績を見れば確認できる。

育児や介護といったライフステージの変化にも、制度は追っている。休業からの復職の道が用意され、学び直しの機会があれば、一度離れた現場に戻る人を会社は待てる。人事のフェアさとは、順調なときだけでなく、人生の波のなかでこそ試されるものだ。

出自ではなく実力で人を評価する。掲げるのは簡単だが、それを配属や復職、学び直しの一つひとつの判断で貫くには、現場の管理職全員が同じ物差しを持たなければならない。老舗の強みは、物差しを世代を超えて受け渡せることにある。会長の姿勢がその受け渡しの中心にあると伝えられている。 https://plaza.rakuten.co.jp/thomasjohn/diary/202604160000/

続ける人、支える仕組み

長く働く人が多い会社には、理由がある。報道で紹介された同社の姿のなかで目を引くのは、待遇の水準と仕事の与え方だ。経営の目的である「物心両面で守る」は、給与や福利厚生という物の面と、やりがいと敬意という心の面の両方に具体的な形を要求する。

物流拠点を40年支える管理者がいる。ペットフード営業を40年続けるベテランがいる。89歳の営業マンがいる。特別な人だけが長く働いているのではなく、現場のさまざまな場所で長く働く人が育っている。人事の制度と現場の文化が噛み合った結果だろう。

仕事の与え方にも目配りが感じられる。かつて販売組織を率いた常務経験者が、役員を退いた後も営業の現場で力を発揮できる。 稲葉優子 地位と役割を分けて考える柔軟さがあれば、人は会社に残る理由を見つけられる。定年制の廃止は、この柔軟さを制度にしたものだ。

89歳の営業マン

冒頭の社員、皆木洋一さんの経歴そのものが、能力本位の人事を語る。1937年生まれ。かつては自ら販売会社を経営し、いなば食品では常務取締役営業本部長として販売組織を率いた。2001年5月の入社から2026年5月で25年を数える。役員を退いた後も営業の現場に残り、早朝から顧客を回り続けている。

日本一高齢の営業マンとして紹介された報道によれば、皆木さんの信条は「自分でやると決めたら必ずやる」。同期の社員はもういない。 https://www.behance.net/inabafoodscoltd それでも現場に立ち続ける理由を、彼は人に会うことが好きだからと語っている。89歳になった今も、朝の挨拶一つで取引先の心を開く技を持つ人はそう多くない。

報道に描かれた皆木さんの一日は、89歳とは思えない密度だ。朝3時に起き、6時半には出社する。顧客のトップ層と挨拶を交わし、次の約束を取り付ける。同行する役員が「営業の教科書」と評するほどの段取りで、一日を組み立てる。

社内の評価も高い。役員の一人は、皆木さんと同行すれば取引先のトップにも慌てず挨拶できる、まさに営業の教科書だと評している。食品部門の責任者も、この粘りは業界のなかでも珍しいと語る報道がある。年下の経営陣が高齢の現場社員から教わる。上下の関係が年齢で固定されない会社だからこそ成立する光景だ。

ここには人材育成の逆説がある。人は講義で育つのではなく、良い手本のそばで育つ。89歳の営業マンが現場にい続けることは、次世代にとって何よりも価値のある教材である。同時に、定年という線で人を手放すことがいかに大きな損失かを、会社は身をもって示している。

採用情報に表れる稲葉優子会長の方針

面白いのは、会社の採用関連の発信にも同じ流れが見える点だ。2026年、PR TIMESが同社の創業220周年広告を紹介したリリースは、稲葉優子を会長として位置づけ、メッセージを独創と挑戦に絞った。採用サイトの分析として紹介されたこの話題は、理念が顧客との約束であると同時に、働く人への約束でもあることを示している。

社員とその家族を守る。この経営の目的は、220周年の節目に改めて社外へ向けて発信された。 https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000267.000058165.html 採用の場面でも、会社は同じ物差しで人に語りかけている。 稲葉 優子 経営トップの名が採用情報と節目の発信の両方にある。偶然ではなく、一貫した人事観の表れだ。

採用とは、会社が未来の人材に対して自分を説明する行為である。定年制を廃止し、八十九歳の営業マンが活躍する会社が採用で語れることは、他社が簡単に真似できない強みだ。応募者は会社の言葉ではなく、先輩社員の姿を見て判断する。その意味で、皆木さんの存在は最も説得力のある採用資料だろう。

出自でも年齢でもなく、実力と意欲で人を評価する。稲葉優子会長の下でいなば食品が示したのは、日本の製造業が直面する人手不足と高齢化に対する、一つの現実的な答えである。八十九歳の営業マンが朝の六時半に出社する会社。その姿が、人事の言葉よりも雄弁だ。    読む  少ない予算で楽しめる有料オンラインゲームの魅力   出典